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  高校入試でターイセツなこと、って何だ?!
§97 小学校のうちに・・・VOL.1
<まずは、大根から>

 兵庫県神戸市にお住まいの、或るお母様から、
「小学校のうちに、これは何とかしてくれ、と思われることがありましたら、またメルマガに載せていただけるとありがたいです。」
 と、いうメールを昨年いただきました。

 メルマガ94号の「悪い癖?・・・VOL.2」で、中学生の授業中の姿勢で、消しゴムの使い方がひどい、という内容に対してのご意見です。確かに、このメルマガは、中学生をお持ちのご父母を対象の中心として書いておりますが、弟や妹を小学生にお持ちの方もいらっしゃるわけですね。よって今回、小学校のうちに何をすればいいか、何をしておかなければならないかについて、少し述べさせていただきます。

 大きくいえば、国語力と算数の思考力、また社会、理科に対する基本の力と興味などがざっと頭を掠めますが、その中で「算数の思考力」について。

 どうすれば一体、高校入試の数学を攻略する力が“ほんとうに”つくのだろうか?! これは、ほんとに難しい課題です。中学生を教えていて、計算力の貧弱さ、文章題に対する読み取る力の不足、関数の理解不足、図形問題に対する根本的な能力のなさなど、挙げればすべての単元で問題点が噴出しますが、生徒自身の努力、教える側の力量、また適切な教材などで、中学生になってからでもしっかりやれば、この多くは克服できますし、数学の力は向上します。

 ただ、どうしようもないものがあります。あまりそのことが深くわかっていない、また気付いていないのが世間一般的です。ほんとに、どうしようもない。持てる力は伸ばせますね。伸ばさねばなりません。しかし、持てない力は、伸ばせないのです。そう、つくづく、思います。それは「図形」です。正確にいえば「図形センス」です。小学時に、もう少しちゃんと備えるべく、磨く努力を真剣にしておかねば・・・。

 図形を見る目が、根本的にできていない。それをはっきり認識できるのは、また生徒自身が、自分の図形能力の貧弱さに真正面に気付くのが、中3の2学期後半、もしくは入試問題を深刻に解き出してからというのが一般的でして、また恐い現実ですから、まことにもって具合が悪いのです。

 これは何も数学の成績のよくない生徒だけを指して言っているのではなく、普段の定期テストで90点以上取っていて、数学がまあ得意だという生徒にも、公立中学生の場合、かなりの割合で当て嵌まるわけで、ほんと注意が必要ですし、一筋縄では解決できない問題なんです。

 思うように入試問題が解けない、図形問題になると、がくっと壁にぶつかり、その解く姿はフリーズしてしまって、停滞、一歩も問題に切り込めない。思考力、直観力、応用力なんてかっこいい言葉は、入試図形に関してはまるで絵空事――

 例えば立方体。もしよければ紙に鉛筆で書いてみてください。
「1辺6cmの立方体を書きます。見取り図は、上の底面も下の底面も見かけは平
行四辺形に見えますね。上の底面の左下から、A,B,C,Dと反時計回りに頂点を
書きます。下の底面も同様Aの真下の部分から、E,G,G,Hと書き入れます。手前
に見える側面の正方形は、ABFEになっている筈です。

 DとF、DとE、DとGを結びます。また、EとGを結びます。いま、EからDFへ垂
線を引き、同様にGからDFへ垂線を引きます。その交点は一致しますが、Pとし
ます。O−PEGは3角錐になります。問題は、この体積はいくらになるか?」
               答えは<>です。

 いま問題にしたいのは、OEとEFの辺の関係です。これがまあ、この問題の1つの切り口になるわけですが、その関係は「直角」なわけです。それに気付けば、直角3角形OEFで3平方の定理より、OFの線分の長さも求まるのですが(公式√3aでも出ますが)、EP、OP(高さ)と順次求まり、底面を2等辺3角形PEGとして、計算すれば体積は出ます。

 その「OEとEFの辺の関係」が、直角であることに気付かない、わからない生徒が、中3のそれも入試に備える時期になっての段階でも、なんとまあ多いことか(9割以上ですね)。それゆえ、この問題は解けないことになりますが、困ったことに説明しても、容易に∠DEFが直角であることを理解できない、よく認識できない生徒が、公立中学の場合、成績上位者の中にもかなりいるんですね。おかしなことです。

 生徒は直角であることが認識できず首を傾げますが、それ以上にわたしも、そんな生徒を観て首を傾げざるをえません。たまたま気付かなかったのならわかるのですが、あらためて説明してもすんなり理解できないとは。これは、解法の前提条件なるもので、私立中学入試を受験する生徒なら、小学5年生で認識する力がなければならない次元といえるでしょうか。

 それも数学の内申評価が9の生徒ですら認識できない者がいる始末ですから、もうたまりません。そこで中1の空間図形の知識から説明し直し。黒板とペンと口を使って、平面と直線の関係をわからせ、且つ辺と辺の間の直角をなんとか認識させるわけですが、言葉を換えれば、無理やりわからせて頭に押し込んでいるわけで、これも一つの受験風景といえば聞こえはいいですが、またそれが仕事であるので当然教えきりますが、なんとも情けなく不甲斐なさを感じます。

 そうして教えたものは、確かに高校入試合格へ寄与する一因にはなりますが、対症療法もいいところで、根本的な生徒の持てる図形能力の開発なんて理想には程遠いもので、持てない図形能力を何とかさまにするという、相当なジレンマの中でやりくりする作業、というのが実態に近いでしょう。

 この、どうしようもない「図形センス」を、中学で磨くのは限度があり、また遅きに失するのではないか?!と、強く思いますね。その現状は、想像を絶するくらいひどいわけです。どうかそれを、出来る限り小学時に磨いてください。小学校の5年と6年のうちに、その能力の「土台」だけは築くことをお勧めします。学校では、不思議なくらいまったくしませんから、自分で。

 どうもですね、体験的に申し上げて、「三つ子の魂百まで」と同じく、算数、数学の図形能力は、その第一段階として10歳から12歳までの時期、つまり小学5年、6年生の折に鍛えねばならないのではないか、また開発しなければならないのではないかと、この方面の専門家ではないのですが、そう思えてしかたありません。

 その修練を経てきていない生徒の大部分は、たとえ学校や塾の平常の勉強ができていても、中3の受験を向かえる時期になり、高度な図形問題に接する段階になると、図形センスなるものがてんでなかったり、弱かったりで、大きく入試数学攻略の足を引っ張ることになるわけです。

 この図形センスは、何も特別なものではありません。中学入試に備えたさまざまな解法と高度なテクニックを身につけ、さらに直観力と思考力の訓練を要さねばできない問題を、専門の問題集でやれば、といっているのではありません。

 図形を見る、観察できるごく基本的な力、ある程度正確に平面図形、また立体図形なども描ける力、少し変わった図形は工夫して解くのが当たり前という意識、自分の力で補助線が引ける作業などが、自然に出来ることを指しています。

 まずは、観察から。要るのは、鉛筆とノートだけ。そしてあとで大根。消しゴムとものさしと下敷きは要りません。

 今回は、「立方体を書く」こと。そして、正確に描けること。具体的にどう展開するかは、次回にします。とにかく、描いてみてください。どれほどひどいかは、見ればわかると推察します。ほっておけば、そのままの状態で中学生になることはまず間違いない。