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§417 文理学科の数学の問題を解いてみて思うこと VOL.3
<屋上での勉強>
「相手が従来の考え方や判断のしかたをとりやめて、ワンステージ上げたテスト改革を行ったのですから、こちらもそれに合わせた考え方、意識改革、そして数学に対するもう一歩踏み込んだ質の高い受験対策の勉強が求められるでしょう。」
と、前回VOL.2の最後で書きました。
ワンステージ上げた数学のテストとはどういうものか、それはVOL.1とVOL.2で言及と説明をしてきましたが、イメージを感覚的にもうすこし鮮明にもてるよう角度を変えて表現するなら、3階建てのビルに譬えられるかもしれません(なんかヘタな譬えになりますけれど)。
定期テストの力というものは、1階の部分といえます。学校の実力テストや1,2年及び3年の前半までの学力テスト(or模試)などは、2階にあたります。そしていわゆる入試数学の問題、その一般的な公立入試のテストは、3階に相当します。
いままでは、そして現在でも、平均的な公立入試の数学は、この1階、2階、3階と着実に踏んでいけば、各々の持ている力に相応してじゅうぶんにその力を発揮できたわけです。しかし、今回言及している文理学科の数学のテストや公立超難関高で出している独自校問題などの多くは、3階ではなくその上の屋上にまで登る力が求められるといえます。
1階でやる勉強といっても実際どれほど大変か、そのことは直接に生徒指導して20数年のなかで、骨の髄まで沁みてわかっています。2階の勉強、その実力をつけるために、つまり、ふだん身につけたように思える力とほんとうの実力のあいだには、生徒はつねにギャップが生まれれるために、それを埋める作業をどれほど繰りかえしていかねばならないのかも、よくわかっています。さらに3階の勉強、わかっていてもまだこの時期でもミスをする、そんな問題処理のしかたを改めさすところから、ガクンと突然レベルが上がった応用問題の対応のしかたまで、具体的作業はつねに困難と抵抗のなかで進めていかねばならないことなども、よく承知しています。
こうしたことを踏まえたうえで、書いています。しかし逆にいえば、こうした考えや見方、すなわち従来の視点では、3階の上の屋上にまで登る力は一般にはなかなか見えない、または見落とす可能性が高いかともいえるでしょう。見えないものを目標とするわけにはいきませんから。
もともと秘めて持っている能力が違うのか、あるいは偶然にか、3階までの勉強しかしていないのにその屋上にまで登りきる生徒はいるもんです。大したもんです。しかし大半は、現実のもっとシビアに高いレベルになった目標をしっかり見定めて、そこに到達すべく努力していかねばならないわけです。そのためには、こちらもそれに合わせた考え方、学力判断における意識改革といったものが当然なければなりません。
前回書きましたように、10段階の相対評価の内申で、たとえば160.5点や163.5点(内申点の満点:165点)ときわめて高い評価をもらっているのに、数学の学力検査で68点とか87点前後(120点満点)になるのは、いったいどこに原因があるのかといえば、3階までの勉強しかできていなかった、そしてその上の屋上での勉強がほとんどなされてこなかった、といえるのではないでしょうか。
いや、塾などの特別講義でそれなりにやってきたのかもしれません。しかし、その期間がやはり短かったり、ほんとうには理解ができてなかったり、知識としてはわかっていても自分で応用するまでの力が磨けていなかったなどいろいろ理由はあるでしょう。が、つまるところ屋上での勉強がまったく不十分だった、あるいはそこでの思考力が不足していたのではないか、と類推されます。
では、屋上での勉強とはなにか、どういうふうに進めたらいいのか? が思案に浮かぶところですが、これに関してはすでに、VOL.1とVOl.2を読んでもられば気づかれるはずです。また、いままでにもかなり「数学の学習のしかた」(HP上にも掲載)で説明していますし、その方策もしつこいほど述べてきています。
基本的にはなんらそれらの方策や注意点と変わりません。が、もう一度ここで確認と参考の意味で、「屋上の勉強」に関することだけに絞って若干書いてみることにします。ただしこれまでの話の都合上、大阪府の文理学科の数学のような問題レベルと構成を想定して書きますので、自分の都道府県の問題とは違うところが微妙にあるでしょうから、そこは考慮してお読み願いたく思います。しかし、わたしの知るかぎり大切な根幹部分は具体的にも、まったく同じであると考えております。
1.屋上での勉強とはなにか。
その主体は、図形の勉強です。図形に始まって、図形に終わる、と認識して徹底的にその勉強に取り組まねばならないのではありませんか。
司馬遼太郎「坂の上の雲」(文春文庫)の第8巻、その日露戦争の海軍における日本海海戦に関する記述(勝手ながら抜粋させていただきます)のなかに、次のような一節があります。
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弱者の側に立った日本側が強者(ロシアのこと)に勝つために、弱者の特権
である考えぬくことを行ない、さらにその考えを思いつきにせず、それをもっ
て全艦隊を機能化した、ということである。
とくに東郷は、
「海戦の要諦は、砲弾を敵よりも多く命中させる以外にない」
という平凡な主題を徹底させ、かれの戦略も戦術もこの一点に集中させたの
である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
弱者、考えぬく、思いつきにはしない、機能化する、要諦、敵より多く命中させる以外にない、平凡な主題を徹底する、一点に集中させる。どの言葉ひとつとっても、意味は深く、わたしの解説などかえって邪魔でしませんが、「屋上の勉強」も、これと同じ認識と覚悟で向かうべきではないかと思います。
2.どういうふうに進めたらいいのか。
これは、大きくふたつの学習が要るんですね。
図形力というのは、急につくものではまずありません。中1、中2、中3と各学年、教科書では最終の単元で図形を学習しますが、こんな程度、教科書の基本知識とその問題とテスト、年のなかで2,3カ月やれば次の学習まで9カ月以上あいてしまうといった空白の期間、などでもし図形力を磨けるなどと考えていればとんでもない話であります。学習内容の厚みや集中の度合いなどは一定ではないにしても、継続的な勉強が必要です。
また図形力というものは、全体をひとつで掴むのではなく、実は上下二重の層でその力を捉えておくべきかと思います。下の土台になる層と、上の中3で習う図形の知識を活用する層です。
「屋上の勉強」をする生徒は、すくなくとも小学(5・)6年から中学2年終わりまでに土台の層が、じゅうぶん形成されておくことが基本条件となります。ところがこの土台の層が、中1生や中2生はもちろん、中3生でもどうも危うい生徒がいます。もちろん1階の勉強では図形関係のテストでも90点以上やそこらはとれていたり、2階の勉強でも偏差値が65や68前後はとれているわけですが、それゆえにまずまずと安心するというか、判断に狂いが生じる可能性があるので注意しなければなりません。
図形の土台の層の力は、たとえば、点を移動すれば直線になるのか孤を描くのかといった判断、面を平行移動したり回転させたりするとどういう立体になるとか、ある部分を別のところに持って行けばヘンテコな形の面積も簡単に求まるとか、正四角柱を斜めに切ればどういう種類の切断面ができるかとか、それがやや難しくなってただの正四角柱ではなく一見いびつな四角柱に見え、それをしかも斜めに切断したものの体積を求めるとか、角柱を捻じ曲げるとか、ある平面図形を転がすとか、別の図形の周りを転がすとか、別の図形の上を移動させて重なりの部分の面積を求めるとか、立体に水を入れ傾けてその水の量を求めるとか、あともっと基本のことでいえばいろんな角度、正方形と正三角形が絡んだなかでの角度を求めたり、ほんとに思いつくまま書いているのでランダムに表現していますがその他もろもろ、これらはなにも中3後半の相似や三平方の定理といった図形分野を習わずともできる問題はいっぱいあり、それらがほとんど解ける力、またするどくあるいは工夫して観る力は、まさにこの土台の層の力なのです。こうした図形力を果たして持っていますか、というこ
とです。
次に、上の、中3で習う図形の知識を活用する層の力。
これは、中3後半の相似や三平方の定理、図形の計量といった図形分野の単元の基本をまずきちんと習得し、次に入試レベルの数学の応用問題を数多く演習して、そこから得た知識や解法、テクニックなどをもとに、自分の頭で、類題であろうが新たな創作問題であろうが持っている図形力をいかに当て嵌め、活用するかを修練していくことが、その勉強となります。
しかし、これは本質的に3階の勉強であり、1ヶ月とか2ヶ月の期間で過去問を中心にその他の入試問題を解いているだけでは、深さも幅もまだ足りないのです。それでも一般の公立入試の数学には通じるかもしれませんが、今回指摘しているようなたとえば文理学科の入試数学には対応しきれず、ひどければ半分あるいは6割といった点数しかとれないことになるのです。
それゆえ、期間ももっと長い、深さも幅もより増やす「中3で習う図形の知識を活用する層の力」をもっと磨く「屋上の勉強」が要るのです。
ただしこの場合、「図形の土台の層の力」が完璧ではなくともそこそこ、そこそこというのは3分の1や半分くらいではまったく話にならず、すくなくとも8割以上はすでに最低身についていなければなりませんね。なぜなら、入試の難レベルの問題にはこの土台の層の力が、目には見えませんが必ず潜んでいて求められていますから。
そしてこの不備は1、2割程度なら「中3で習う図形の知識を活用する層の力」の勉強のなかでなんとか補えるでしょうが、それ以上だと、目の前にある図形問題の本質に切り込む能力が鈍り、理解はしても応用・活用する能力が期待するほど育たない結果となりますから、ほんとにこのあたりをよくよく前もって、あるいは長期的に考えて形成していってほしいと願っています。
小学生(5,6年)のあいだにある水準まで、図形力を鍛えておくことが望まれますし、中学生でも1年と2年のあいだに、継続して図形の土台の層の力をもっと鍛えておくべき勉強があります。
もし「屋上の勉強」をしようと思っている生徒においては、いま行っている塾での勉強や自宅での学習で、今回のVOL.1からVOL.3のような視点での勉強が入っているかどうか、それを一度点検またその対策をとられていくことが必要ではないか、と考えている次第です。
以上です。
なおE-juku1st.Comで「屋上の勉強」対象の問題集で、とくに「図形」専門の問題集は下記2冊です。
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■図形の土台の層の力を磨く問題集
・「「算数の図形教室」←<A>は小学生用、<B>は中学生(中1と中2)用
■中3で習う図形の知識を活用する層の力を磨く問題集
・「入試図形問題の攻略Version4」問題集←中3生用
・「THE証明」問題集←中2&中3生用
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