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§162 数学の問題集を作りながら思ったことVOL.1
<できるかできないかの分かれ目>
はじめに数学の問題から。なに、それっ、眉を顰めて、少々気分が後ろ向きになる方もなかにおられるかもしれませんね。日頃慣れ親しんでいないと、とかくわずらわしいものです、いまさら中学数学の問題を考えることは、いや、たとえ読むだけでも。でもまあ、すこしご辛抱を。
高校入試からの出題、中2生以上ならできる問題です。解答は一番下に書いておきます。もしされたら、参考にどうぞ。
「正の整数Xを6でわると商がYで余りが1になり、Yを8でわると商がZで余りが3になる。
1.XをY の式で表せ。
2.XをZの式で表せ。
3.Xを12でわったときの余りを求めよ。」
レベルはまったく高くはなく基本的ですが、良問と言いたい。なぜなら3番があるからで、ここに出題者のセンスのよさをほんのり感じます。この3番がなければ、入試問題として体をなさず、ただのそこら辺にある演習問題か、定期テスト出る、適当に配列して載せた問題のひとつに過ぎないともいえますが。
問題は、難しければいいというものではない。また、日常的な話題から採り上げ、数学思考を見る問題など近年よく出されるが、わたし個人の感想としては、うーん、これはいいねえ、よくできた問題だ、と感心させられるものは至って少ない。おーい、そんなところで生徒の数学の能力を測れないぞ、とそのドンキホーテ的な感覚というか、現実認識の誤謬と指導要領をそのまま受け売りした愚かとしかいいようのない対応問題には、正直辟易させられる。
中学段階での数学は、あくまで学問上の数学の狭い範囲内(といっても、きちんとやれば、その裏側に占めている応用の世界はかなりの拡がりがあるのだけど)でまずは切磋琢磨、その能力を磨いてもらいたいものだ、と考えている。しかしいまや、3割減、ほんとうに思考力と応用の世界の拡がり、つまりそこにこそ数学ならではの面白さ、醍醐味などが従来にはあったのだが、そこに通じる部分が無思慮に削られ骨抜きにされたのには、あほらしさと瞋恚を覚える。
それでも数少ないなかで問題にセンスの良さを感じるのは、関数問題の一部と図形問題にあるわけですが、こんな視座と感想は一般にはちっとも参考になるものではなくこの辺にして、さて、なんで上記の問題を書いたか、ですね。
小学校で余りのある割り算を勉強します。たとえば
23÷7=3…2のように。では逆に、割られる数23を求めるには、どう計算すればいか? 簡単ですね、7と3をかけ2を足せばいい。計算の仕組み(?)、いや感覚的にも知っておいて当たり前です。そしてそれが中1になると、文字式で次のように問題としてされます。
「ある正の整数を6でわると商がXで余りがYになる。ある整数をXとYを使って表せ」
まず問題通り、ある正の整数を適当において、この際、○にしましょうか、そうすると○÷6=X…Y
で表せる。問題は○の部分の表しかた。ここでどう式を組み立てたらいいのかわからないとする。なら、余りのでる式を自分で適当に作って、割られる数の求め方を確認すればいい。<つまり、ここがポイントでしょう。> 23÷6=3…5 そうか、23を求めるには、6と3をかけて余りの5
を足せばいいんだな、同様に考えて、○÷6=X…Yだから、6とXをかけてYを足す、と。6×X+Y。文字式では×の符号は省略するのだから、答えは6X+Y。
中1のこの時期、まだ文字式に不慣れな面、表面的には理解してもまだ体の中まで染み込んでいないというか、正しい表現と自分の考えが合致しない不安定さがありそれを考慮したとしても、自分の力だけで解ける生徒が、2,3割に過ぎないのはなんともいただけない。
この問題の場合、「わからなくて解けない」というのはどういうことか? 本質だけいうと、過去に習ったことを活かされていない、また活かす力に弱いということに他なりません。活かされないということは、きちっと理解し本人のなかに基本の知識として蓄えていないわけです。学習を押し進めていくとよくわかることですが、生徒の「わからない」という実相の半分以上は実に、これに類します。
中2になると1学期、式の計算で再度習います。形は「ある正の整数Xを6でわると商がYで余りが1になる。YをX
の式で表せ。」と。XをY の式で表せではありません。YをX
の式で表せ、です。つまり等式変形ですね。
でも考え方はまったく同じ。問題通り余りのある式を作り、等式に直して、それから等式変形すればいい(そんな面倒くさいことせずとも一気に答えは書けますが)。これが基本。では、できるのか? 中1でできる生徒はもちろん中2でも正解を書きます。問題は中1の時点でできなかった生徒です。果たして学んだのか? 蓄えたのか?!
しかし、できるのは3割前後であろうか(これでもまだいい数値なのですが、お判りいただけないとは思いますが)。つまりまだ、全体の半数前後の生徒は、またしてもこの基本レベルで躓くわけです。余りのある式を適当に作って考えればいいというコツ(?)ですら、忘れてしまうんですから。
どうせよ、こうせよ、というのはここでは触れるつもりません。問題の根っこは深く、大まかな助言でとてもこの現象を改善に向け得ることはできませんので。ただ指摘しておきたいことは、習った基本を三度も四度も忘れるようなだらしない勉強のしかた、浅い学習だけは決してすべきではない、ということです。その力は間違いなく入試まで持ち越して突入してしまいますから。
中2で習い、自らに蓄えるべき内容は、もう一度最初の問題を書きますと、「正の整数Xを6でわると商がYで余りが1になり、Yを8でわると商がZで余りが3になる。
1.XをY の式で表せ。
2.XをZの式で表せ。
3.Xを12でわったときの余りを求めよ。」
の、3番です。
一体、いつまで1番と2番のレベルに留まっているのか?!といいたくなる。中2で習得することは、等式変形と整数問題の説明(or証明)<たとえば、奇数+偶数は奇数である、など>である。この3番もまさに、その整数問題の説明を理解、利用する力を身につけておけば、なんてことなく解ける問題です。
それが中3になると、1,2番でさえまたしてもおかしい生徒が・・・。ましてや3番になると・・・。
これはしかし、生徒の数学の実態を覗いてみて、何十、いや百以上ある問題のなかのほんの一例に過ぎない。
できるかできないかの分かれ目は常に、日頃の学習のなかに在る。一つ一つは小さくてもそれが百も寄せ集まれば、どのくらいの差が出てくるかは容易に想像できるかと思います。実力はなにも、応用レベルの難しい問題が出来なければ上がらないわけではない。むしろ多くの生徒の場合、基本の習得が、ほんとにこの例のように足りないのである。そしてその基本の学びかたが、不徹底に過ぎるのである。くれぐれもご注意していただきたい。
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【解答】
1.X÷6=Y…1 より、X=6Y+1 答え X=6Y+1
2.Y÷8=Z…3 より、Y=8Z+3 これを1番で求めた式
X=6Y+1に代入すると、X=6(8Z+3)+1 展開して
X=48Z+18+1=48Z+19
答え X=48Z+19
3.2番の式、X=48Z+19 より、12でくくると、X=12(4Z+1)+7
4Z+1は整数だから、12(4Z+1)は12の倍数である、つまりXを12でわった時のあまりは7になる。
答え 7
なーんだ、そんなんでいいのか。簡単じゃない。そうなんです、簡単なんですが・・・。
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