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§65 数学問題集を作り終えて・・・
<問題集作成の原点>
数学の問題集を改訂し終えました。昨年の11月から取り掛かり、4ヶ月ほど費やしたわけですが、肩は凝るは神経はぼろぼろになるは、この疲れを癒したいのですが、入試真っ最中、そうもいかず、まったく気を緩める暇がありません。
問題集を作成するということは、当たり前のことですが、一つのことに集中することであり、感情の揺れや思考の温度を一定に保たないと、歪な挟雑物がすぐ混じることになり、またそれ以上に、ある一定水準の思惑の統一性が維持できない。よって、この期間、・・・を並べるが如く息を殺して、蟻の目と牛の歩みで努めてまいりました。他にしなければならないことは当然あるのですが、目を瞑り、しない。できるだけしない。ごみ一つ拾うのも面倒くさい。
かなり大袈裟な表現ですが、デューマの『岩窟王』の心境か。いや、ちと違うな。昔、小学から中学生の時に読んだ、菊池寛の『恩讐の彼方に』の主人公の心境かな。つちとのみだけで、洞門を二十数年かかって掘った主人公に准えるのは、恐れ多いことだけど、でもそんな心境だった。のみで目の前にある岩をこつこつ穿つ以外には前に進まない。
朝、塾に入り(普段なら近寄りもしないのだけど)、感情の中にある躁の部分を消し去り、ちょうど腹の部分に陰が溜まる状態で取りかからないと、作業はできない(不健康ですね)。この呼吸を長く続けると、たぶんダメになるだろう。ところが厄介なことに(?)、夕刻からは塾生に勉強を教えることが仕事だから、これは陰、鬱では、話にならないわけで、つまり、体内のスイッチを切り替え、限りないエネルギーの放射が必要で、そりゃあ、わけのわからないこと、理屈に通らないこと、思惑通りには進まないことを、生徒は平気でどんどんしてくれますから、その不条理で混沌とした学習世界に負けない、強靭な神経と、撥ね返すパワーと、限りない忍耐が必要になるわけです。
しかし時には、スイッチの切り替えが上手くゆかず、陰を引きずったまま授業に突入してしまい、中3生のあまりにも不甲斐ない実力と恐ろしいほどの忘却に、もっと平たく言えば、ここまで来てこんなことも知らないのかよ、何度も腐るほど教えただろうが、もう何ともならんぜよ、えっ、これまで積んできたものは一体何だったんだ?! どこに置いて来たんだと、暗鬱たる気持ちに襲われ、ぽっかり口を開け、言葉を失い、目が点になり、きっ、気力が、まったくなくなることも、あるわけですね。
まあ、そんな感慨と前置きはいいとして、こうして中1数学から中2数学、そして中3の数学の問題作成をしてまいりますと、すべての道はローマに通ず、ではありませんが、中学数学の完成は、中3にあるんだな、ということを、あらためて強く感じました。
しかし一つ慷慨をいえば、「図形」が今度の新指導要領で骨抜きになっているのではないか、ということです。その最たるものが「円」と「図形の計量」の単元なのですが、円については、中1で作図、中2で円周角の定理、中3では「相似」(従来は中2学習)と「3平方の定理」の中に少し含まれるという、分断のされ方で、それも発展問題になる接弦定理、内接四角形の定理といったも
のは指導要領内には含まれず、さらには円と相似がらみの計量も基本的には扱われないというから、まったく話になりません。
また詳しいことは省きますが、「図形の計量」(これが数学の中で一番重要なのですが)も単元としてはなくなり、簡単な話、今までの入試問題の花形であった、そして数学の本物の思考力を試す一線級の問題が、消えてしまった感がします。まあ、この他にも削除された単元はあるのですが、ほんとに「3割減」を嫌いうほど感じさせられる内容です。しかし、その内実の質の低下はそれ以上のものになるでしょう。
わたしの問題集作成の原点は、簡単にいうと、入試を視て、生徒を観て、という視点から作られています。教科書は重視しますが、公立中学の授業の質、先生のレベル、進め方やその問題点(たくさん問題点はありますね)を意識しつつも、それに捉われていては「入試に打ち勝つ力」は到底つきませんので、基礎でも大事なところは思いきり演習量を増やし、また余計で不必要な部分は軽くするか排除し、入試に必要な知識、これは便利で役に立つ解法だなという公式やテクニックはどんどん取り入れて、絶えず応用問題、入試問題を結びつけた問題構成にしてあります。
序でに書かせていただきますが、細かい特徴、細部にわたる問題構成(これは実際してみなくてはわかりません)はいいとして、その最大の狙いは生徒の実力養成にあるわけですから、これがほんとに大変! ほんとにほんとに大変。
前にも何度も書いていますように、教えることだけなら簡単(最近はそれもちょっと難しくなりつつありますが)でして、わかんないところをわかるように教えることもさして困難なことではない。そしてその延長であるところの学校の定期テストで、それなりにまあいい点を取らせるといいますか(大柄な言い方をお許しください、ほんとに一つの実感なんですから)、取るように反復訓練することも、まあ出来るわけです。
しかし、これは、はっきり言って、ほんものではない。ほんものは時間が経ってもあまり風化しないでしょう。しかし現実は、成績のいい生徒も悪い生徒も、その風化はヒドイの一語に尽きます。その物忘れの甚だしさには、唖然として言葉になりません。例えば学校の成績のいい生徒をみても、定期テストではコンスタントに理科なんかで92点とか89点とかを年間を通して取っていて、
こちらも少しは安心しているのに、どうして実力テスト(学力テスト)では54点なんかを取らなきゃならないんだ? 偏差値にしても、52,3なんかになってしまうんだ? 不可解ですよ。
たまたま? いえ、悲しいかな、それが正当な実力なんですね、その生徒にとっては。ドライに書いてますが、結構こちらとしてもがっくりくるというか同情するというか、つらいものがあります。つまり、ほんものの実力をつけるとは、とても大変なんです。普段は目にはあまり見えませんね。さすがにこれを防ぐ為に、防がねばならない為に、数・英の問題集があるのです。
習ったときはいい、しかし次の単元に移れば、前のことを忘れる。小さいことはいいとしても、大事な大事なことでも、時に基本的なことですら容易に平気で忘れる。ということは、半年前のことはもっと忘れることであり、1年前なら、そんなの習ったっけ?という状態。これを大掛かりに復習することは、口では言うは易く、そんなに時間も意気込みも生徒にあるわけではありませんか
ら、まして本人任せなら、殆ど実行はしない、完遂しないのが、現実の殆どでしょう。数学なんて、覚えることは他の教科に較べ、ごく少ないのにね。それでも忘れるのが、生徒の実態ですね。ここから見える単純な論理。それを逆手に取れば、少しはましになるかも。事実、その通り。
忘れた頃に、あるいは忘れてしまう頃に、大切な問題の反復練習を取り入れる。忘れてしまったら困る問題を、それこそ計算問題から関数、図形、公式活用まで今までに習った全範囲で、常に新しい単元の学習の中で、少し取り入れる。わたしの作成した問題集では、「授業編」のプリントの下に常に入れてあります。
そしてそれに対応した「HOMEWORK編」では、当然習った範囲から、思考力を要する応用問題、入試問題を右側の狭い部分に載せ、時間をかけて解かせるよう、仕向けています。まあ、ここの部分は力のある生徒でも、なかなか最後まで(大問の中の最後の問題)解けませんが。また、粘り強く解く生徒もすくないですが、それを口うるさく指導するしかありません。ほんとの実力獲得はこの部分を吸収することにあるんだけど。
そのような観点から作っていますので、この度の指導内容の縮小と学年間の単元移動(中2学習の相似は中3に、中3学習の確率は中2へ、他)に対応しつつ改訂しても、従来のレベルは出来得る限り維持してつくりました(かなり腐心しましたが)。なぜなら、学校に、教科書に準拠した問題作りでは、とても入試に備えた学力は形成されませんし、それ以上に私立高校入試(偏差値68までですが)に対応することが出来ませんから。よって、学習指導要領外の事項でも、当然必要だなというものは当然入っております。
従来の解答版で図形などで説明事項などの不備があったところは、大幅に書き直し、特に中3数学については、応用問題についてはかなり解法の説明を加筆しました。
今回はなにやら大いに、E-juku1st.Com の数学/(英語)の宣伝の内容に、後半傾きましたが、まあとても苦労したものですから、軽くお赦しいただければ有難いと思っております。
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