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§230 問題集を選択するその発想 VOL.2
<図形を描くこと>
前回よりの続きです。あくまでこの内容は小学校に限定して述べていますので、そのつもりでお読みください。
問題集には大きく2つのタイプがあり、小学生が「日々の学習で基本の知識を固め、より理解を深めるワークタイプの問題集」で、どういうものを使っていけばいいかのご質問、と把えて以下少し書いていきます。
その場合、そうですか、ではこういう問題集はどうですかといった同じ流れに乗った発想や考え方は、わたしにはあまりないのです、と書きました。それはどういうことか。
まず勉強には、学校の授業と教科書がありますね。現在の教育環境では、それでは質も量もまったく足りない理由は前に触れました。よって学力低下の波にもろに呑み込まれないためにも、あるいは学力をより確かなものにするためにも、適切な問題集で補足、充実していく必要性が出てくるかと思います。
そこでなんですが、学校以外まったく何もしていないのは別として、○会の通信講座にしろ、○ゼミにしろ○研にしろ、あるいは○文や近くの塾に通っているにしろ、既に別の教材を使ってプラスαの勉強している方も多いでしょう。もちろん自宅で自学自習の形で市販の問題集を使い、お母様などがすこし勉強を見てあげている場合も含めてですが、それらの教材や問題集にあき足らず、他に併用する適当な教材がないか?と思案、検討されているケースは、一般に勉強を進めていくなかでよくあることだと思います。
そこで何を求めるか、求めようとしているのかによって、利用する問題集は当然違うことになるのはご存知のとおりです。よってここでの規定は、小学校でしっかり押さえ学び、十二分に身につけておくべき算数の「基本学力」をつけるため、の問題集とします。
しかし、ちょっと待てよ、といいたい。たしかにいまやっている問題集だけでは足りない、もう少し足さねばならないと考えるのは自然な流れなんですが、もう少し足さねばならないのは、いまやっている勉強そのものなかにもあるんじゃないかと思うわけです。なぜこのようなことを言うかというと、中学生のその勉強を視ていると、公立中学生の場合10人中8、9人まではそれが、あきれるほどないからです。
それがとは、いまやっている勉強の中身を深める作業、しばしば書いていますが「わかる」から「できる」までの追求の姿勢、です。これは、応用になればなるほどなくてはならない大事なものですが、「基本でも十分身につけておかねばならないもの」でしょう。言い換えれば、基本でこの作業と姿勢がない、あるいは不十分だから、応用になると途端にたじたじとなる、なんとか理解はしても、使いこなすことができない、そのように軽く上面を撫ぜただけの勉強しかできないのです。実力なんてつく道理がないではありませんか。
一例を引いてみましょう。
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正方形があります。(よければちょっと適当な用紙に正方形を書いてみてください。)
4頂点の左上をAとし、反時計回りにB,C,Dとします。辺ABの中点をM、辺BCの中点
をNとします。MとNを結ぶ。DとM、DとNも結ぶ。そのMN、DM、DNを結んだ線分に
沿って折り曲げた立体の体積を求めよ、が問題です。1辺6cmとしましょうか。 <答えは一番下に>
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この問題は基本ではありません。削りに削って痩せ細ってしまったいまの算数では、角すいや円すいの体積の問題は中学(中1課程)に移行してしまいました。しかし、ちょっとした算数の問題集(6年生レベル)なら載っているかという問題です。
よく生徒はいいますね。「こんなの、まだ学校では習っていない」と。じゃあ、習ったことはほぼすべてできるんだろうね。算数に限らず、漢字でも、理科や地理・歴史でも。上記の問題はいま、中学の学力テストなんかでときに出題されが、こういう生徒はまずできない。次々とあまりに懸け離れた先取り学習をしていくことは、それは本人の力次第、勝手であるけれど、またすべき時期が来たらどんどんしたらいいと思っているけれど、普通の状況下ではわたしはあまりお勧めしない。しかし、従来は小学校では基本であった内容、削減されてしまった単元は、当然のようにやるべきだと考えている。その意味でこの問題は、基本にちょっと毛が生えた程度の問題くらいなものである。
話しが逸れました。問題集で上の問題に、たまたま出遭ったとします。
問題を解きました。少し考えたけど、わからなかった。そこで解答をみて、あーなるほどと思って理解した。それで終わり。あるいは、もう少しきちんとして学習、ノートに式を書いてやり直した。それで終わり。さらにあるいは、問題は解けたのだけど、それは偶然であったり、ようはわからないけどなんとなく解答と自分の答えがあったりして、できたと思ってしまっているケースもある。もちろん、それで終わり。
では、この問題のポイントは何? 何を学んだのか? ふーん・・・、そこが実は、闇ですね。その闇のなかに実力の卵がしっかりと在れば素敵なんですが、こういう学習では多くの場合、それは幻想でしかない。期待することは虚しいだけで、はっきり「ない」と認識したほうがいいということが、十二分に経験させられわかりました。つまり、表に形として現れるものだけしか、信用できんなあ、と。(さらに、その表に出た形でさえ、絶対的な信用はおけないのですが、それはさておき・・・。)
「もう少し足さねばならないのは、いまやっている勉強そのものなかにもあるんじゃないかと思うわけです」
の意味は、この「表に形として現れるもの」をもっと追求する勉強を考えてみてはどうか、ということです。
この問題の場合。
1.折り曲げた立体が3角すいになることを、具体的に正方形の紙を用いて作っ
てみる。正方形の紙は折り紙でもいいけれど、たとえばB-4用紙で物差しを
使わずに(長さを測らずに。線を引くときだけは用いる)、正方形を作ってみ
る、それも勉強になりますね。
2.底面がどこで、高さがどこになるかを、実物でよく確認する。
この問題の場合、△MBN(直角2等辺3角形)が底面になり、高さはAD(orDC)
となるわけだけど、立体の求積問題の考え方の定番がここにはある。
3角すいや4角すい、また円すいの体積の求め方を知らない場合(いまの教科
書では習わない)、底面積×高さ×1/3を教えればすむこと。
底面と高さ、特に高さが、生徒は掴みきれていない場合が多い。驚くことに、
いまの中学の2,3年生でもわかっていない(半分はね)のだから、図形を観
る目とセンスを小学校のうちに養うことが非常に大事である。
ついでに、この問題を少し発展してみる。底面を△DMNとした場合、点AとBと
Cが集まった頂点から底面△DMNへ垂線を下ろしたとき、その長さを求めよ。
(底面△DMNの面積は求まるはずだから(正方形から直角2等辺3角形と直角3角
形2つを引けばいいだけ)、上の求めた体積と考え合わせれば、求まる)
3.作った3角すいの見取り図を描いてみる。
これが実は1や2とともに、非常に大事な学習である。教科書や問題集に載っ
ている図はすべて自分で描けるようになることが、それも物差しをあえて使
わず手書きでほぼ正確に描けるようになることが、図形問題に強くなる最大
のコツのひとつであり、基本中の基本の作業でもある、とわたしは考えてい
る。
ところが、やってもらえばすぐにわかりますが、そのコツがまったくないの
に気づくでしょう。図形をよく観ること、そして観たことを正確に描けるこ
と、その力が欠如していることに唖然とするはずです。いかにふだん図形を
よく観ていないか、問題は解いてもその図形が持つ性質や特徴を知っていな
い、また自分のものにしていないことに、覚醒させられることになるでしょうか。
では、どうすればいいかですが、それは訓練ですね。時間をかけ、徐々に慣れていくことです。問題集を解くことだけが勉強ではありません。いろいろな問題集に手を出して勉強していくことが、比例して実力を高めることには必ずしも繋がらない。大切なことは、何をどれだけ学ぶかなんですが、それは塾に行ったからとて同様で、しかし、このことは誰しも頭ではわかっているのだろ
うけれど、実際には現実のなかではわかっていない方が一般に多数います。
この大事な作図能力は図形問題を解く基礎であり、しかも応用を解くに際しては、なくてはならない必須の能力です。小学校で身につけておくべきものです! 学校でしているか? いいえ、しておりません。このことに気づいている教師は、残念ながら10人に1人もいないでしょう。そんな程度だと、あえて書いておきます。塾でもしているか? これまた少ないかと思います。よって、他をあてにせず、自らがやればいい、それだけのことです。
さて、上記の問題の見取り図は、仮にイメージできたとしても結構書きづらいので、これはこれで訓練するとしても、もしする場合はもっと基礎的な図形から練習をしていったほうがいいかと考えます。
基本的には小5生以上で想定していますが、別に小4生でもやる気があればしてみてください。立方体や直方体、円すい、3角すい、4角すい、などですね。条件は「手書き」です。いろんな大きさのを、一見しておかしくない図形が描けるまで(ほんとにおかしな図を描きますから)、根気よく続けるまたアドバイスしてあげることが必要です。
それがまずほぼ正確に描けるようになれば、次にスピードをつけてすばやく描ける訓練を積んでください。立体だけではありませんね。平面図形も大事です。正方形、長方形、そして円、半円。半円なんかも最初はほんとにひどい図を描きますから、訓練です。3角形では特に、直角2等辺3角形と30度・60度・90度の特別な直角3角形が描けるようになることが大切です。また、おうぎ形もあります。中心角が90度、30度、45度、120度のおうぎ形を描く訓練。
たとえば中心角120度のおうぎ形を描いたとします。弧はなんとかキレイに描けた(ように見えて)として、弧の両端を直線で結びます。次に中心角の半分のところ(60度)で弧に対して半径を引いたとします。弧の両端を結んだ直線と半径が交わるわけですが、ほぼ正確におうぎ形を描いたなら、半径を2等分するところで交わらねばなりません。恐らくそうはならないはずです。原因は、この描き方のカーブが緩いこと、そして中心角がほぼ120度にはならず90度や100度のおうぎ形を描いているためです。この角度に対する感覚も正常にはありませんから、訓練を積むことが求められます。
この基本的な図、平面や立体の図形が手書きですばやく描けるようになれば(結構な時間を必要としますよ)、それはかなりの進歩ですが、次の段階があります。それはより複雑な図といいますか、たとえば正方形に半円が組み合わさった図とか、90度の円と半円がいろいろ交わった図、いわゆる求積関係の図がありますね、それらを描く練習があります。しかし、上記の基本がしっかりできて訓練が積めておれば、複雑そうにみえても案外簡単に描けるようになっているのですが、それらの平面図形のほか、立体でも組み合わさった図や展開図もあるのでそれらも描けるようにしていけばいいかと思います。
どうでしょうか、結構な量のある勉強だとは思われませんか? 遊び心も入れてできるだけ楽しく勉強をすればいいのですが、こうした勉強は時間にもまだまだ余裕のある小学校で、是非とも積んでおくべき算数学習の基本であると、わたしは考えている次第です。
「わかる」から「できる」までの追求の姿勢、いまやっている勉強の中身を深める作業について今回、1例をもとに算数の「図形」に関して助言を致しました。ここからどうつないでいくか、実践していくかは、皆様のご判断に委ねます。
さて、算数の「基本学力」にはあと2つありますね。それは「計算(比などの数量関係を含めて)」と「文章題」ですが、長くなりましたので次回のVOL.3にまわします。
<問題の解答:9立方センチ>
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