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§116 大いなる面談の蹉跌?!・・・
<実力とは、背中に3キロ(中3の場合)の重荷>
いま、学校では、三者懇談が真っ最中だろうか。すでに済んだ方もおれば、これからの方もいるでしょうね。塾に通ってればその面談もあるだろうし、さあその中身は、学年によってあるいは担任によってさまざま、深刻なもの切実なものがあるかと思えば、生活状況や当り障りのないものだけを触れた簡単なものも、ときにはいい加減な内容、手抜きのものもあるでしょうね。
それで今回は、塾の面談の失敗談を書いてみます。極めて特殊な例なので、ご参考になるとは思いかねますが、まあこれも一つのケースとして。
その生徒、吉川君(もちろん仮称)は、中2の3学期から入塾で、例によって入塾テスト3科目の結果は、ヒドイの一語。これじゃあ公立高に入れるやら入れないやら、とにかく数・英の基礎がまるでなっていない。いつも思うんだけど、この基礎がガタガタになってから、またそれにようやく気付いてから塾に頼ったり、家庭教師についたりする生徒、父兄の方も一方にはこれまた多いの
が現実なわけで、ぼろぼろの基礎知識とその穴を開ける前に、どうしてもう少し早く対処しなかったのかと、こちらがなぜか悔やむ気持ちになるのはどうしたことだろうか。(これは中小の塾の宿命のひとつ、といえるけれども)
この場合、はっきりいって、持てる力にプラスαをつけるのではなく、持てない力になんとか基礎を放り込み、まずプラスマイナスゼロの地点まで持っていかねばならないわけです。これは文章としては簡単に書けますが、容易な作業ではないわけでして、仕事とはいえ、生徒も泣かされるわけだけど、こちらも相当神経が磨り減って泣かされることになる。何で今頃、これしきのことがわかっていなのか? また、こんなこともわからずに学校の勉強がよくついて行けてるな、と不思議に思うことはしょっちゅうで、生徒の症状にもよりますが、もう糸がぐるぐる闇雲に絡まってるので、まともな応答、思考、作業になるのに早くて3ヶ月、へたすると半年ぐらいは最低かかるのが平均でしょうか。
ところがどういうわけか、吉川君本人もお母さんも公立のK
高ぐらいにはせめて行きたいと思ってる、と真面目な顔して、面談の際言うのです。いえ、別にね、目標は高く(?)持つのはいいのだけど、まずは、自分の力をしっかり知ることでしょう。なるほど学校のテストでは500点満点で350点前後は取ってるらしいが、私の学力チェックでは、数学が40点そこそこ、英語は30点ぐらい。とてもとてもK
高に行く力には及ばない。
及ばないどころか、実力となると、公立高校そのものに行くだけの力も備わっていないよ。そのあたりをまず、詳しく説明したわけです。ところが、普通これである程度わかるのだけど、不思議なことに、そして猛烈に疲れることに、いまいち人の説明をわかろうとせず、また自分の状況、実力を、正確に認識しようとはしないのです。
まあそれはいいとして、その後の中2の成績は一進一退。教えて1、2ヶ月で急に力がつくものでも成績が伸びるものではありません。最初の定期テストの英語の点数は65点。まったく伸びてません。読む、書く、覚えるの訓練を拙著問題集で行なう。その他、細々、ほんと細々指導していくわけですね。細々した注意点が、見事に欠落していてわかっていないわけですから。
で、中3の1学期の中間テストでは89点を取り、期末では91点を取ったわけです。総合点も350点から420点(期末テスト)に伸び、漸く身につき出したかな?と、私も思いだし、このまま順調に行くと中堅のK
高にいけると考えました。学力テストの結果も、当初の45ぐらいの偏差値からから56へアップしました。
面談では、そのあたりの努力の成果と今後の課題を言う予定でした。ところが、吉川君のお母さんから出た言葉は意外なものでした。
Yの母:「私立のKD高に行きたいのですが」
私: 「えっ? K高じゃなかったのですか?」
Yの母:「いえ、実技の4教科が悪いので、私立のKD高ならどうかと思って」
私: 「ちょっと待ってください。まだ実技の内申も決まったわけではない
し、これからでしょう。また、何でKD高を考えたんですか?」
Yの母:「その、本人の性格を見てると、高校でまたしっかり勉強するとは考
えにくいし、KD高なら上に大学もありますし、本人のためにいいと思
いまして」
(そんなことで行けるなら、誰でも行こうとするよ)
私: 「あのですね、KD高のレベルを知ってますか?」
Yの母:「ええ、聞いたところでは、400点以上なら受けられるって」
(なんて単純に考えるんだよう!・・・。 嗚呼、出来ることなら私も
そう考えたいよ)
私: 「・・・。あのですね、それは無理です。定期テストで400点を超えた
からといって、それと実力とはまだまだ比例しません。一体、誰から
そんな根もない話、根拠のないデタラメなことを聞いたんですか?」
Yの母:「知り合いからです、○○の方でそれくらいの点で受けた人がいまし
た。入試には運・不運があって、実力があってもすべる子もいれば、
あの子がという子が合格することもありますから」
(ちょっと、話がいまいちつながりませんが・・・。)
私: 「いや、逆です。公立はそういうことがあっても、私立はしっかりした
実力がなければ通りません。学校の先生にはそのことを言ったんです
か?」
Yの母:「ええ、先生も実力テストで90点以上取れれば、狙ってもいい、と」
(まったく・・・、無責任にも、よく言えるよなあ、軽くね。ところで、
それを、誰が教えるんだあっ?!・・・)
私: 「ふーっ、なんとでも口だけなら言えますがね。問題の質が違うんで
すよ。現在の吉川君の力は、やっと55、6ぐらい。KD高は偏差値で68
近くいりますよ。即ち、公立のトップ高のI高とほぼ同じ。家庭教師
をつけて毎日特訓しても、無理です。その覚悟はありますか?」
Yの母:「いえっ、ついこの前から考え出したことなので、本人もまだ・・・」
(これ、ひょっとして、思いつきで言ってるのか?・・・)
私: 「KD高の下には私立ではKO高があります。その下のS高、その下のSR高
でも現状、いけるかどうかわかりません。そんなものです」
(なして、これだけ私立高のレベルを説明しなければならないの?!
まあそれはいいとして、もっと大切なこと、伝えたいことがあるんだ
けどね・・・。いまさら話の流れ上、それを言ってもちぐはぐになる
だけで)
実際はこの二倍以上は話しているんだけど、所要時間20分の予定が大きく狂い、50分以上は問答を繰り返したか。成績が上がり褒めるつもりが、これでは否定ばかりではないか。いけません、ダメです、無理です。何でこんなことを、私がいわなければならない羽目に陥ったのか?・・・。どうやら初っ端から、まともに聞き過ぎて(これは当たり前の姿勢なんだけど)、話の筋道が狂ってしまったらしい。言多くして、益少なし、こんな成句があったかなかったか、とにかくそんな心境だ。この不毛な疲労と脱力感は、からだと神経によくあり
ません。
テレビで筋肉番付という番組の中に、跳び箱がありますね。世界記録は確か23段だったか。大人でスポーツ神経抜群な人でも15段くらいになるとなかなか跳べない。自分の力の限界点がくると、1段増えるとそれは巨大な壁になるわけで、気力、体力、勇気が充溢していても、自分が跳べる高さのあと1段の、10センチアップを乗り越えることがなかなか難しい。
さしづめ私なんか、10段が跳べるのだろうか? 想像するに5段くらいから跳び始めて7、8段まではいけそうな気がする。しかしこれも現実やってみなきゃあわかんないわけだけど。あとは練習で自己の体力と精神力を鍛え、ない勇気を無理に奮いこし、1段、1段をクリアーする試みを行なうのみか。ある程度は予測できるわけだ。ここには無限の可能性なんて言葉は存在しない。
上の吉川君の例を跳び箱で当て嵌めてみると、次のようになるか。
7段が公立校高の最低レベルとして、13段が公立校高のトップレベル(大阪府の場合ですが)、15段が超難関有名私立高校とします。(この評価のよしあしは別として、現実的には歴然と存在する)
最初は実力的に7段も到達していなかった(定期テストでは8段)。その後の半年の動きで、9段にまで進歩した(定期テストレベルでは10段)。しかし、本人とお母さんの言ってる私立高校KDは12段なわけです。どう転んでも12段は無理なわけです。9段の次は10段があり、更に11段があり、そして12段があるのです(当たり前か。その当たり前がわからないのを、言葉でわかってもらうとすること自体、苦痛と忍耐が要りますね)。
私の感懐は、よくぞ9段まで跳べるようになったな、ということであり、口でのんびりした観測を述べてるのではなく、ここまで来るのにはほんと様々な問題を乗り越えたというか、修練を積んだというか、言わないでいいものをわからないから事細かに言わなければならず、その果てしない連続のもと、勉強の基礎を徹底して教え込んだわけです。
この過程の中で、教える者の眼力として、各生徒の勉強に対する資質は把握できて当然です。吉川君に対する私の肌身で感じる判断は、あと1段上の10段がとてつもなく難しい、ということです。本来なら、また常識的に考えるなら、この時点で塾の役割、わたしの使命はほぼ達成しました。が、それが通じない。
通じないどころか、まるで学力は無限に伸びるものかのように、更に2段すっ飛ばして3段アップの高校を考えてるわけで、正直説得する気も失せるわけで、まあかなり厳しく言っちゃいましたが、面談後の疲労感はなかなか取れませんでした・・・。早い話が、私の説明よりこの場合、実際に12段の跳び箱を本人が跳んでみれば、また脇にいてお母さんがその姿を見れば、わかるのかも知れませんが。
もう一つ認識不足を付け加えるならば、上のお母さんの判断の材料は、学校の定期テストで420点取ったということと、知り合いからのなんら根拠のない、分析も不十分な情報です。実力9段、学校の評価10段(但し5科目のみ、これは危険ですから。実技の4教科が大切です)としますと、定期テストの点を実力とまだ混同してる、ということです。
イメージ的に言えば、実力とは、背中に3キロ(中3の場合)の重荷を背負ってる感じとでもいえますか。普段の定期テストではそれを、もちろん背負っていません。で、10段の跳び箱が跳べたしても、3キロを背負った実力テストでは9段を跳べるのがやっと、ではないかな? その3キロの正体は中1、2の学習にあるわけだけど、それが重いと感じる生徒が、じつに多い。彼もその生徒の一人であることは、論を俟たない。
中にはそんな重荷は一切感じずに、軽快に12段、13段の跳び箱を超える生徒もごく稀にいるわけだけど、そんな生徒は2%にも満たない。 生徒によればこの3キロを背負っただけで、12段の跳び箱を跳んでいたのが10段も跳べない者がいるので、定期テストと実力テストの差異、さらには入試問題への対応力の見極めを慎重に視るよう心がけた方がよいかもしれませんね。
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