|
§46 公立型?私立型?
<実技4教科が低いとどうなる?・・・>
この表題は、実は単純にわり切れるような平易な問題ではありませんね。
私立中学受験なら、本人の志望もご父母の方の希望もその方向で合致し、経済的な問題も踏まえた上で進行するわけですから、結果が成功するも失敗するもある程度は納得済みなわけで、しかも学校の成績がどうのこうのいうことも殆ど関係なく、あくまで実力一本、要素としてはすっきりしています。
力があれば合格するであろうし、たとえかなりの努力しても力が及ばなければ不合格になる。その中身は算・国・理・社の4教科(2科目のところも一部ありますが、また国立も省きますが)に限られる。それに対し、高校受験の場合、高いレベルの私立高校を専願で目指す、また逆に公立高がちょっと無理で私立ならなんとかという場合、まあ問題・矛盾は比較的すくないのに対し、それ以外の場合、つまり、これがもっとも多いケースになるわけすが、私立と公立の併願受験になるのが一般的ですね。
公立高校が向いてるのか私立高校が向いてるのか、その本人の能力とタイプを見定めて決めていくのはふつう、中3になってからです。しかし、見定めるも見定めないもない、そんな悠長なことは言っておれず、経済的事情ほか、あくまで本人の能力に見合う公立高校に行ってもらわなくてはぜったい困る、そのために塾に高い月謝支払って通わせてるんだから、というご父母達の切実な想いや願いも多いかと思います。
わたしの塾も生徒のほとんどどは公立高志向で、またこれをお読みいただいてるメルマガも、公立高校受験に役立つノウハウ、参考意見を拙文ながらご提供してるわけで、その基盤に立って申しますと、公立型?私立型?を云々することは、あまり本意ではありません。
されど、現実は油断ならないといいますか、こちらの意図した通り、予測した通りいかないことが往往にしてあるものですが、ましてや生徒のこととなると、具体的にいうなら成績、内申(調査書)で、「どうして? どうしてこういう結果になるんだ?!」と、小首を傾げる事がほんとよくあるわけです。小さなことまで捉えると、首が傾いだまま元に戻ることはないくらいです。
そのなかで、公立受験を第一に捉えて進学しようとする場合の、思わぬ陥穽について、すこし触れておきたいと思います。現在、公立高を受験する際、都道府県によってその決め方は様々に違うわけですが、大きくいって調査書(内申点)と学力検査の二つによって合否が決まることはご存知の通りです。
なお、各都道府県の合否判定の詳しい内容をお知りになりたい方は、新学社提供の各県の選抜方法のホームページを下記に記しましたので、ご参照ください。
URL http://www.sing.co.jp/nyushi.htm
問題は調査書(内申)のほうなんですが、5段階評価(稀に10段階評価)と別れ、中1から採点に含まれる都道府県もあれば、中2から、あるいは中3の成績だけ見る県とさまざまです。学力検査と調査書「学習の記録」等との比重はほぼ同等(中には4:6とか6:4のところもあるのでご注意を)が主流ですが、やはり調査書(内申)というのが、まず志望校を決める際に大きくものを言うわけですね。
別な言い方をすれば、実力があっても内申の評価が低い生徒は希望する高校には難色を示されることがままあるわけで、また逆に、実力は客観的に見てあまりないのだけど、どういうわけか(ある程度その理由はわかっていますが)内申点は結構いいという生徒もいます。
ここに二つの、いささか極端な例を書きます。
まず一つ目は、A さん(女子)とします。素晴らしくできる生徒です。内申は、数・英・国・理・社の主要5科目と実技4科目の計9科目で決まるのはご存知の通りです。わたしのいる県は3年次の成績で決まり、10段階評価です。普通科の話ですがただちょっと厄介なのは、そして首を傾げたくなるのは、配点バランスです。主要5科目は4倍、実技4科目は6倍になるということ(他府県はそうではありませんから、ご心配なく)。
<注:近年このバランス、基準はどんどん変更しています。よって、まあ一つの参考に過ぎませんが、でも基本的な部分はあまり変わりませんので、以前のまま書いておきます。>
どういうことかというと、たとえば英語の内申が7なら、×4で28点、音楽の内申が5なら、×6で30点、となるわけです。つまり主要5科目は40点×5=200点、実技4科目は60点×4=240点で、合計440点が内申点ということになります。それに入試の学力検査が5科目、80点×5=400点の、点数加算方式で決めれれます。
ひらたくいえば、数学がたとえ内申で最高の10とっても40点なのに対し、体育で10取れば、60点なわけです。この違い、差は大きい。つまり、数・英等の5教科が内申、8,9,10を頑張って取れたとしても、実技の4科目が4や5を取ると、内申の総合点は大きく足を引っ張られ、実力があっても希望する高校に行けないケースが出てくる可能性があるわけです。
主要5科目は能力もありますが、努力次第で成績は上げられるのに対し、実技4科目は、即ち、音楽、美術、保健体育、技術家庭は努力以外の才能に負うところも非常に多いのではありませんか。得手不得手は誰しもあるものです。それが自然だと思います。
しかし、A さんは違った。なんと5科目オール10、実技4科目オール10、全てが10だったそうです(もちろん、うちの塾生ではありません)。こんなことがあるのでしょうか? 長い経験のなかでも初めてですが。5科目なら、わからないことはないのですが、実技の関して、音楽ができ、美術にも才能があり、運動も抜群、家庭も得意、といった完全無欠、パーフェクトな生徒がいるのでしょうか?! でも、いるんですね。
信じられない、というのが正直な気持ちです。また生徒のことを考えると、少しでいいから点を廻してくれよな、といいたくなります。この生徒は公立のトップ高(偏差値68以上、ネット上の偏差値では72)ではなく、国立へ進学したそうです。
次に、B 君(男子)の話。A さんの話は何か現実味が乏しく、あ、そう、よかったね、で聞き流したくなります。B 君は塾のなかでは成績が真ん中頃で、中3の時点で学力偏差値は56前後でした。まあ、公立は大丈夫、ただ内申次第ではそれに見合った高校は行けないかもしれないな、と思っていました。お母さんとの懇談でも、近くならどこの公立でもいい、とわりと淡白な考えでした。
2学期の半ばが過ぎ、学校との三者面談があり、一回目の内申発表となりました。その結果に吃驚しました。「公立は無理、私立のK 高の専願にしたほうがよい」と、学校の先生に言われたそうです。公立高校が5つあり、ランク的に上から、A、B、C、D、E
とすれば、実力ではC 高になんとか受かる可能性のある生徒です。過去の経験、実績から言っても、私立のK高は併願でじゅうぶん合格します。
しかし、内申があまりにもひどいのです。主要5教科の評価も、塾の学力テストの偏差値、また学校での定期テストの点数から判断したのよりかなり下回り、それ以上に問題だったのは、実技4教科の評価でした。目が点になるというか、開いた口が塞がらないとはこのことで、本人もかなりのショックですが、こちらも手痛いショックでした。実力的に一番低い生徒よりもまだ下の内申点でしたから。
結果からいうと、実力の一番低い生徒でも公立のE高に入れたわけで、B 君の場合でも、C高は無理にしても、D高、E高には内申点の低さを実力ではね返して入れたと思います。けれども、B君とそのご両親は、学校の先生の言に重きを置いたというか、振り回されたというか、こちらの説得、指導の時間もないまま早々に、私立のK高に行くことに決めました。そして塾の勉強はもう必要ありませんから、残り1か月を残して退塾していきました。
それはそれでいいのかもしれませんが、痛恨のミスというか、残念でなりません。B君は小学6年から教えだし、計3年半あまり指導してきて、大きく飛躍は出来なかったもののそれなりに5教科の成績もなんとか形がついたと思っていただけに、この内申点のつけられ方と学校の先生の指導には納得いかないものが、大いにありました。
以上、調査書について二つの極端な具体例を書きましたが、特に後者のケースから学ぶべきことはあるかと思われます。都道府県によって、また各高校によってもその選抜方法は違いますし、普通科中心に話をしましたが、専門学科や総合学科によってもまた異なります。
しかし、公立高校を受験するに際し、調査書(内申)というものは大きな比重を占めるものですし、くれぐれも心して注意を怠ってはいけないと考えています。本人の意志、学力とは離れたところで、公立型?私立型?を決められてしまうケースも、なかにはあるんですから。
主要5科目だけでなく、実技4科目にもじゅうぶん意識して、気を抜かないように頑張ってほしい。これは本人以外、誰も手伝ってはくれません。
|
|
|