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§276 蛇口の水漏れが・・・
<幽かな手がかり>
風呂場の蛇口の水漏れがずっと続いていた。温水と冷水の2口に別れた、まあもう20年近く昔の古いタイプだけど、栓をいくらきつく閉めても、ポトポト水が漏れる。そのポトポトがボトボトになり、いよいよ限界に達した。もう見て見ぬふりしてるだけじゃあすまなくなった。
そんなの簡単じゃん、ホームセンター行って、パッキン買ってきて取り替えれるだけじゃあない――。そうなんですよね。まったく簡単なことなんです。それは頭ではわかっているんだけど、しかし実際やってみると、わたしの場合そう簡単に終わらせてくれないんですね、ほぼいつも。
最近はDIYなんていうのかもしれないけれど、この日曜大工がとんと苦手、長年へまばっかしてきた。上手な人はすいすいと、一回ですんなり片付けてしまうものだけど、わたしの場合はその一回ですんなり片付けてしまう確率が極めて低く、それは10打数2安打ぐらいなもので、あとの残りは2度3度は最低錯誤してやっとなんとかうまくゆくのがふつうである。この自分のなかのふつう
が、たまらなく不愉快であり、ミジメである。
昔、引き戸形式になっている玄関に、何を思ったのかその理由はさだかに憶いさせないが、鍵をつけることになった。ホームセンターで品定めをし、うんこれならいいねと思ったのを買ってきては、いそいそと鍵を取り付けた。もちろんすったもんだし、そしてあれこれ思案しつつ、なんとか完成した。わたしはそれをやや自慢げに家内にみせた。これでガッチリ閉まっている、どうだ、わが出来栄えは・・・。
家内は反対側の引き戸とでもいえばいいのかな、わたしの予期しない(?)側の扉に触って、ガラガラッと開けるではないか。あっけなくわが出来栄えは霧散した。それ以後、わたしの日曜大工は常に疑われること多々あり、たとえどんなに立派に(?)やり遂げても、その評価は芳しいものではない。
さて、もうひとつ。3年ほど前の話になるが、水洗トイレの水が流したあと、ちょろちょろと水が出て止まらなくなった。来る日も来る日も水洗タンクのなかを覗き込んでは、レバーとなかの鎖の長さを調節したり、オーバーフロー管から流れる水位を微妙に変えてみたり、はたまたボールタップという器具と白い浮き玉をつなぐ管の長さを何十回も変えたり折れ曲げたり、素人でできることすべてやってみた。
それでも埒があかない。そこで、原因はボールタップと白い浮き玉にある、これが痛んでいるんだと判断し(いや、あとでわかるのだけど、この判断が間違っていた)、わたしの力量からすると無謀にも新品に取り替えるべくホームセンターで買ってきては、拙いことに果敢にも水洗トイレと格闘した。
何が起こったかといえば、小さなトラブルや厄介な作業は次々と出てきたのだが、その一番大きなものは、水洗トイレ横にある給水管から突然水が溢れ出して、トイレ(2Fにある)のなかは水浸し、悪いことにそれが1階の浴室横にある天井に漏れ出して、その壁紙の一部をいたく損傷させてしまったことです。
事態は直すどころかますますこじれ、悪化の一途。そのあとの七転八倒を書けばいつまで経っても今回の話題に進まないので割愛するとして、まあとにかく体力と気力のどちらも目一杯使い果たして、原因であるところのボールタップと白い浮き玉を備え付けました。ところが・・・。
ようやくこれで開放されると思っていた観測は、甘かった。相変わらず水がちろちろと流れ出すではないか。ふーん、何がいけないのか、その後2、3日また、タンクに頭突っ込んで観察した。そしてようやく気づきました。あと1箇所、おかしいところがある、と。それは、タンクの一番下にあるボール状の黒い浮きゴムです。これが長いあいだに磨耗して、隙間ができているいるんではないか?・・・。(こんなの初めに気づけよな。その感覚が鈍いんだ)
そこでまたホームセンターに行っては、迷いつつ買ってきた。なぜ迷ったかといえば、大小2種類の浮きゴムがあったから。知らないってことは、とことん疲れるものですね。結果は見事成功。水はぴたっと止まりました。でもね、これだけのどんくさい錯誤と判断の拙さをしでかすと、とても成功した実感なんか得られるものではなく、やれやれと思うのが精一杯。
この水まわりのトラブル解決で、ひどい目にもうひとつ遭っているのだけど、情けないことにこれら失敗から学んだというものはあまりなく、むしろ逆に、「水の低きに就く如し」と孟子がいったように、自然の勢いといものは人力では止めがたいものだ、という、ちょっと大袈裟な言い回しになりますがそのような意いを強くし、また「蟻の一穴ダムをも壊す」とでもいった人類古代からの治水に対する困難と畏れが偲ばれ、ただただ我が身の置き換えては日曜大工の次元で無様なことよ、と呆れかえった次第です。
そんな背景もあり、今回の風呂場の蛇口の水漏れには、簡単なことよと思いつつも、ぐずぐずして及び腰、気分も乗らないのでありました。どうか世間一般では簡単なことをわたしも簡単に済ませられますようにと、なかば祈りつつ取りかかりました。
いきなりパッキンを買いに行ってもサイズが合うどうかわからないので(これくらいの分別はある。またこれくらいしかない)、まずどうなっているのか構造の下調べ。道具を揃え、止水栓を閉めて、給水栓上部のハンドルを外す。なかに取り付けてある金属のアダプター(?)をゆるめて外し、ゴムパッキンが極度に磨り減っていることを確認。ははーん、これか、これが原因だね。よくサイズを見て、と・・・。
よし、わかったということで、バイクでホームセンターに直行。水栓コマとパッキンが一緒になっている水栓用ケレップというものを買い、これだけではなにかの間違いとあるといけないから(このへんが、どうも自信のないことを表しているね)、単品のゴムパッキンも買う。
さて家に帰っては早速、予行演習したとおり、きわめてスムーズにするべき処置を行う。温水と冷水の2口の水栓用ケレップを同時に取り替えて、止めてあった止水栓を開ける。あとは確認だけである。
風呂場に行くと、なんと水がジャジャ漏れではないか? ハンドルを閉め忘れたかと思っていくらきつく閉めても、水はそんなことにお構いなくざぶざぶ出てくるではないか。な、なんで?・・・。なにが起こっているのか、しばし頭のなかは真っ白。それから同じ作業を3度繰り返したが、自然の勢いといものは人力では止めがたいものだ、といわんばかりに水は非情にも蛇口から吐き出る。
水はポトポトからボトボト、いまはその数百倍の勢いである。これで今日はやめておこうなんて、許されない。止水栓を閉めておけば家中、水がまったくでない状況になり、また開けておけば浴槽に水が何十倍分溜まるか、考えただけでもおぞましい。二進も三進もいかないって、このことか。
全身に疲労の気だるさを感じるものの、わたしの意識と感覚はガクンと一段高く張りつめ、本気モードに包まれた。給水栓上部のハンドル、古びた金属のアダプター(?)、新旧の水栓用ケレップなるもの、そしてネジなど、説明しえるものすべて袋に詰め込んで、今度は車に乗ってホームセンターに脱兎の如くすっ飛んで行きました。
水栓補修パーツのコーナーにいき、係りの人に訊ねるべく呼び鈴を押しました。実は最初に買ったときも係りの人(若い男性)に一応説明など受けたのだけど、なんと今回現れたのは、年のころは60歳を過ぎた女の人でありました。心のなかで、あちゃあ、これでは話しが通じない、とイヤな予感がしましたが、まあしかたなく持っていた部品を出して、これこれしかじかと説明をしました。
その場所で1,2分質疑応答(?)なるものをした段階で、問題解決の方向からこの人はどうもずれている、そしてなによりその知ったかぶりと早口から、わたしのいまの焦りまくっている神経と感覚がどうも受け入れぬイヤな波長を感じ、別の人を呼ぼうとしました。と、そのとき、その年配の女性は、古びた金属のアダプターを手にすると、10メートルほど離れたところにある模擬の部品説明のコーナーに行くと、備え付けの部品と交換してわたしのを取り付けるではありませんか。
調べようとするのはわかるのですが、それはわたしから観れば、関係のない余計な行為にしか映らず、なんら問題を解決するヒントにならないものでした。わたしの神経は苛立ちました。もういい、やめてくれっ、と心のなかで呟きました。と今度は、取り付けたわたしの部品がネジがきついのか、その係りの口だけ達者な女性は、外そうとしても容易に外れない素振りをするではありませんか。なんてことをしやがる!とまことに腹立たしく、この上なく不愉快な気分で、ペンチレバーを譲り受けるとわたしが外す始末。
ちょうどそのとき、初めに説明を受けた若い係りの男性が通ったので、呼び止めました。相変わらずぺチャクチャその女性は、若い係とわたしに喋りまくるのだが、わたしはもはや聞く耳を持たず。そして新たにもうひとり年配の男性が加わって、部品がどうだこうだと話を受けるもなんら解決の手がかりを得られない。
新たな男性は、いっそ蛇口の装置全体を取り替えてはどうか、という。ところがわたしのところの旧式の装置はいろいろある見本にはなく、取り寄せになるとのこと。とても素人ではそこまで工事はできないし、そもそも今日のいまの喫緊の状況を、何とか打破しなければならないんだよ! もう、こいつらとは話しにならねえ、と思っていると、ほんとにひとり消え、ふたり消え、そして新たな男性までもがなにかの用事で呼ばれてとんと帰ってこず、結局わたしだけがその場にしゃがんだ状態で取り残されました。
こんな客は相手にしたくないってことなんだろうけれど、ヒドイね。ほんのちょっとの手がかり、対処のしかた、あるいはヒントらしきものが欲しかったのだけど、無駄な時間と余計なお世話だけいただいて、まったく収穫はなし。わたしの本気は空回りに終わるのか・・・。
すごすごと家に帰る途をちょとUターンして、念のためもう一軒あるホームセンターに立ち寄ることにした。たぶん同じだろうが・・・。水栓補修のコーナー近くで梱包の作業をしている係りの男性、35歳前後のメガネをかけた人に、ちょっとお願いといって、部品のあるところまで来てもらい、持っていた袋から水栓用ケレップその他を出し、これこれしかじかと説明を行った。
今度出遭った係りの男性は、わたしの話を注意深くすべて聞いてくれて、こじれている問題点そのものだけについて努めて一緒に考えてくれる、その姿勢にわたしはこころ和らいだ。そして幽かだけど、トラブル脱出の手がかり、一縷の希がみえてきた。
しどろもどろの昏迷状態からなんとか立ち直って、ようやく家に帰った。初めから冷静に、そして幽かな手がかりをしっかり意識して、水栓用ケレップほかを装置した。止水栓を開け、おもむろに風呂場に戻ると、水はピタッと止まっていた。蛇口の開閉のテストをする。大丈夫である。無事、完了した。
それにしても何が原因であったかは聞かないでほしい。ただただ吾がどんくさい日曜大工の力量が為せることである。もう、懲り懲り。とくに水まわりのトラブルだけは、近寄りたくない。
で、教育関係のメルマガとは如何なるつながりが今回あるの?
うーん、別にありません。でも、無理やりこじつけならば、本気でやること、かな。たとえ昏い状態でも、しっかり見つめ考えれば、幽かな手がかりはいつでもきっとあるのでしょう。
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